一緒に改札口へ　　　　　　　　　平成12年11月25日

　先日、地下鉄の改札口で、見てはいけないものを見てしまいました。自動改札
口を二人のおばちゃんが同時に通過しようとしたのです。身長は１50センチまで、
体重は60キログラム超の似たような体型の方々でありましたが、赤の他人です。
なぜなら二人がぴったりと自動改札口の真中ではさまったとき、お互いに無言で
にらみあったからです。そのお二人の視線の鋭さは、大相撲の横綱曙と二子山部
屋で少し前に優勝した貴闘力の立会い前の気迫に満ちたニラミと全く同一のもの
でした。「あんたが譲るべきだわ！」との言葉を二人は胸に秘め、その視線を行
く先に戻した。そして、同時に前へ進もうとする。大変残念なことにお互いのオ
シリの肉がくい込みあい、余計に動かなくなった。その後ろで切符を持ったまま
金縛りにあった私の息子は、息を飲んだまま吐き出せない。その後ろに立つ私は
息子をおいて思わず後ずさりする。出口に立っていた地下鉄の駅員は、さっと別
の改札口のほうへ視線を外し見ていない振りをする。機械は正直で、二人同時に
改札口には行ったので、一人としてカウントし扉は開いている。この結末はいか
にと固唾を飲んでいると、ズルズルと二人は前へわずかだが進む。もう少しだが
んばれ、との周りの人たちの声には出ない応援の甲斐あって進んで行く。一週間
続いた便秘が終わった時のように二人が機械の外へ、ボコッ、と出た。「モー！」
「フンッ！」というお互いの短い言葉を残して二人は反対の方向へ歩いて行く。
袖擦りあうも何かのご縁、オシリが挟まるのも何かの不運。なぜこんな不思議な
体験を共有した二人が、美しい別れ方が出来なかったのか。誠にもって、残念で
あった。オリンピックの体操競技で、後方3回転半ひねりの後の着地に失敗と言う
ところでしょうか。
　という事で、税務の方でこの出来事の教訓とすべきは、一人の子供を父の扶養家
族にしている場合、母の扶養家族には出来ない、ということであります。同時はダ
メですよ、ということです。参考になりましたでしょうか。ならない？そうでしょ
うねー。