中年のおっさん

　　おまえの話し方は、いつの間にか中年のおっさんになったなー。｣
「そんなに感心せんといて。電話で判るか？」
「別に感心はしてないけど。おまえの話を聞いてると中年のおっさんの生活臭
　さがこの受話器から漂ってくるで。｣
「そうか、電話でも臭うか？それは事実やからしかたないけどな。結婚してい
　るのにこんな辛い労働が待っているとは思わんかった。ほんまにしんどいわ。」
「何が辛いねん？｣
「今、この蒸し暑い盛りにクーラーが壊れた部屋で、アイロン掛けしながらこの
　電話聞いているねん。」
「聞いているだけで、汗が出てくるな。嫁さんはどこ行ってんねん？」
「クーラーの良く効いた京橋駅のそばのスポーツセンターでエアロビクスや。」
「それやったら、一緒に行ったらええがな。」
「お金の無駄やからアイロン掛けして汗出したほうがエエていわれたんや。」
「それもそうやな。」
「隣の奥さんもそのほうがエエて言うし、向かいのおばあちゃんは自分のところ
　の洗濯物も頼むわ、て言うしなー。」
「ところで、明日の日曜日にゴルフ行かへんか。」
「急に言われても無理や。明日は、近くのスーパーの店じまい大安売りやから絶
　対アカンワ。おまえと遊んでる場合やないんや。」
「そうか、新地のカワイイ女の子も二人一緒なんやけど。残念やなー。」
「その新地て、北新地か？」
「いや、今里新地や。」
「若いのか？」
「いや、４０歳前後や。」
「４０歳は、女の子と言わへんで。そやけど俺は行くで！最近の飲食店業界の景
　気についてリサーチをしなくては、今後の我々の仕事の未来が見えてこないと
　思ってたんや。」
「ほんまに、中年のおっさんそのものやなー。」
「そんなにほめんといて。」
「ほめているように聞こえるか？」
「とにかく絶対に明日ゴルフへ行くで！」
「その元気、仕事に向けられへんか？」
「嫁さんみたいなこと、言わんといて。」