経理部長へのアドバイス　その３

平成１４年８月ガツ吉日

「むちゃくちゃ暑いですなー。」と扇子を使いながら扉を開けた部長の左手テには、

蓬莱のアイスキャンデーの箱が握ニギられておりました。それを目ざとく発見した

私は、機嫌よく「いやー、ほんまにお久しぶりですなー。奥の方ホウへどうぞどうぞ行

ってください。」奥オクの方といっても、会議机ツクエがもう一つあるだけで、その向こう

は窓というコンパクトに設計された事務所ショです。

「先週に遊びで中国に行ってきましたんや。これ、その時のお土産ですわ。まっ、

　遠慮なしにどうぞ。」

「どうぞって、そのアイスキャンデーは、中国産ですか？」

「いやいや、蓬莱という所は確か東ヒガシの海にあって仙人が住むって、中国の伝説に

　ありましたやろ。そやから伝説の中国アイスキャンデーですわ。」

「松阪屋の下にある天満橋店って書いてますでー。」

「まあまあ、溶けないうちに皆さんでどうぞ。」

この部長さんの話は長いので有名です。

話を聞いているうちに、アイスキャンデーが

溶けてなくなっては、アイスキャンデー屋さんに

申し開きが出来ませんので、早速「伝説のアイスキャンデーを

みんなでいただく事コトにしました。

「ところで、お願いがありますんや。」

「急に部長からお願いて言われたら、アイスキャンデーの骨がのどに引っかかり

　ますがな。」

「アイスキャンデーに骨ホネってありましたか？」

「いやいや、急にお願いを言われたら、のどがつまりそうになるという中国

　４０００年前からの言い伝えですがな。」

「えらい博識ですな。まっ、お願いというのはうちの会社のお金が足タらんよ

　うになった件ですのや。」

「うちの事務所は、開業以来１７年間ずっとお金はたりませんけど。」

「まあまあ、つぶれないのが不思議ですなー。」

「ほっといて下さい。」　

「実は社長が７月の試算表を見てね、『２０００万円も利益でてるのに何で

　銀行に３０００万円も借りに行かんとアカンのや！』っておこってますねん。」

「そらもっともや。」

「もっともやおまへんがな。いろいろ買ったり売ったりしてるからです。」

「例のキャッシュフロー計算書で説明しましたか？」

「もちろん、すぐに見ミてもろて説明しました。」

「理解できないようでしたか？」

「その計算書を見ながら、こめかみの青筋を

　ピクプクと動かしてはったんで、たぶん

　絶望的やと思います。」

「で、社長は分からんって言われましたか？」

「いえ、黙ったままですねん。怒鳴られたら恐ろしいですけど、黙ったままは

　もっと怖くて背筋が寒くなりまっせ。」

「暑い時期やから涼しくてちょうどよろしいですなー。」

「しょうもないこと言イってる場合やおません。ここは大先生の出番ですがな。」

「大先生って、うちの事務所ショには日雇い電卓労働者しかおりませんけど。」

「そう言わんと頼みますわ。うちの経理の女の子がね、社長には先生のぼんやり

　したええ加減な説明の方が何ナンでかよく理解できるみたいって言ってましてん。」

「よけいに説明に行きたくおませんわ。」

「クリサンティームのケーキ１２個入イりも食べはりますか。」

「食べます！」

「そしたら頼みましたで。」

「なんで行くのがケーキで決まりますんや。」

　もう少し貫禄をつけて重みのある税理士になりたいと

思いながらこの資格をとって２０年以上イジョウもたちました。貫禄が

ついてきたのは私ではなく嫁さんの方で、私のほうは相変わら

ず軽いままであります。

　分かりやすい会計資料、分かりやすい説明を心がけています。

しかし、分かりやすいのとぼんやりした説明というのは全く違

います。経理担当の女性に、私の正確無比な会計報告がええ加

減に聞こえているとは知りませんでした。仕方がないので部長チョウ

には、精緻なデータをシンプルな表現で説明するには年季が

必要であると、部長が帰りたがってているのに引きとめ、くど

くどと話しておきました。